10/24/2013

忘れられない一言 4

 「よき腎臓内科医はよき総合内科医」というモットーは割と業界で共有されている。腎臓内科は疾患の性質上全身を診なければ勤まらないし、腎臓内科医がかかりつけ医になっている透析や移植の例もある。私も"We are general internists who happen to be nephrologists"という移植・腎臓内科に精通した若恩師の言葉を胸に日々診療している。

 しかしこれには異論もあって、たとえばCKDクリニックなどで「私達は血糖管理やら疼痛管理やらまで手を出すべきではない」という現実的な見方をする先生もいた。私は帰国して出会った「CKDの集学的治療」という言葉が美しくたいそう気に入っているが、一人に40分掛ける米国大学病院の専門内科外来でさえそんなことしていたら外来は回らない。

 そんなある日、今は亡きボスと一緒にCKD患者さんを診察した。私は(今もだが今よりもっと)かけだしで、血糖が少し上がった患者さんに「血糖は内分泌の先生と一緒にコントロールしてくださいね」みたいなことを言った。ボスは思案しながら私のプレゼンを黙って聴き、そのあと二人で診察室に向かった(米国は日本と違い診察室に患者さんが待っている)。

 ボスは患者さんに「病状は私から聞いた」と言い、共感の視線を向けて「大変だよね、"Why me God?(神様、どうして私がこんな目にあうのですか)"と思うよね」と静かに言った。表層の数字から、若いのにインスリン注射しなければならない(確かうつ病で治療も受けていた)この症例の本質を見通すボス。思わず涙する患者さん。肩に手をやるボス。





 2年も前のことだが、いまだに鮮やかに覚えている。こんなボスに出会えたことを心から感謝せずにいられない。うちの大学の各種臨床医養成過程を総称したMaster Clinician Programのウェブサイト表紙に彼が患者さんと写った写真が載っているのも納得だ。そして私も、このよき臨床家へのJediship(ジェダイ道)を研鑽し後世に伝えたい。